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出生前診断と中絶、各国の制度比較|日本の母体保護法

出生前診断と中絶をめぐる日本と各国の制度を比較したイメージ

出生前診断(NIPT)の結果をきっかけに、人工妊娠中絶をめぐる制度が国によって違う点に関心を持つ方は少なくありません。
この記事では、日本の母体保護法の考え方と、各国で制度が異なる背景を、中立的な立場から整理します。
個人や家族としての選択については、遺伝カウンセリングを扱う別記事もあわせてご覧ください。

この記事でわかること

  • 出生前診断と中絶を「制度・法律」の視点で比較する意味
  • 日本の母体保護法が定める人工妊娠中絶の要件(指定医師・満22週未満・同意)
  • 母体保護法には「胎児の状態」を理由とする条項がないという事実
  • 各国で週数制限や許容事由、胎児条項の有無が異なる背景
  • 制度の違いを知ったうえで、日本で検査を受ける方が確認したいこと

出生前診断(NIPT)と中絶をめぐる制度は、日本と各国とで大きく異なります。日本では母体保護法が要件を定めており、諸外国では週数制限や許容される事由、胎児の状態に関する扱いが国ごとに違います。この記事は、特定の選択を勧めたり否定したりするものではありません。制度と考え方の違いを、落ち着いて見比べるための材料としてお読みください。

出生前診断と中絶を「制度」の視点で見る理由

制度の視点で見ると、同じ検査結果でも、置かれた国によって取りうる選択の幅が変わることが分かります。出生前診断は、おなかの赤ちゃんの染色体の状態などを調べる検査です。その結果をどう受け止め、どのような選択が法律上できるのかは、国の制度に強く左右されます。

人工妊娠中絶とは、法律で定められた期間内に、医学的な方法で妊娠を終了させることをいいます。日本語では同じ「中絶」でも、認められる条件や手続きは国によって別物です。ここを混同すると、海外の情報をそのまま日本にあてはめてしまいがちになります。

私自身、相談の現場で「海外ではこうらしい」という断片的な情報に戸惑う方を何度も見てきました。だからこそ、まずは日本の制度を正確に押さえ、その次に各国の違いを俯瞰する順序が役立ちます。感情論に流されず、事実の枠組みから確認していきましょう。

なお、出生前診断そのもので何が分かるのかを整理したい方は、出生前診断でわかることを解説した記事もあわせてご覧ください。検査の位置づけを理解しておくと、制度の話も飲み込みやすくなります。

日本の制度|母体保護法と人工妊娠中絶の要件

日本では、母体保護法の要件を満たした場合にかぎって、人工妊娠中絶が合法的に行えます。刑法には堕胎罪の規定があり、原則として中絶は禁じられています。その例外を定めているのが母体保護法です。

母体保護法の前身は、1948年に成立した優生保護法でした。かつては優生思想に基づく規定を含んでいましたが、1996年の改正で母体保護法へと改められ、優生思想に関わる条文は削除されています。現在の目的は、母性の生命と健康を保護することにあります。

母体保護法が定める事由・同意・週数

母体保護法では、都道府県の医師会が指定した「指定医師」だけが人工妊娠中絶を行えると定めています。誰でもどこでも行えるわけではありません。手続きの担い手が法律で限定されている点は、日本の制度の特徴です。

第14条が定める事由は、大きく次の2つに整理できます。いずれの場合も、原則として本人および配偶者の同意が必要です。

  • 妊娠の継続または分娩が、身体的または経済的な理由により母体の健康を著しく害するおそれがあるもの
  • 暴行もしくは脅迫によって、または抵抗もしくは拒絶ができない間に姦淫されて妊娠したもの

実施できる時期にも制限があります。人工妊娠中絶が行えるのは、胎児が母体の外では生命を保てない時期、すなわち満22週未満とされています。この週数は法律の運用として定められており、週数を過ぎると母体保護法による中絶はできません。詳しい条文は、e-Govが公開する母体保護法の原文で確認できます。

母体保護法に「胎児の状態」を理由とする条項はない

ここは誤解されやすい点ですが、母体保護法には「胎児の状態そのもの」を中絶の理由とする条項がありません。先ほどの第14条は、あくまで母体側の事情を要件としています。

つまり、出生前診断で染色体の状態が判明したこと自体が、法律上の中絶事由として明記されているわけではありません。この点は、報道や個人の体験談では曖昧に語られがちです。制度の言葉として、正確に区別しておきたいところ。

日本産科婦人科学会などの関連団体は、出生前検査のあり方について慎重な見解を示してきました。検査は命の選別を目的とするものではない、という立場が繰り返し確認されています。学会の考え方は、日本産科婦人科学会の公式サイトで公表されています。

各国で制度が異なる主な論点|国際比較の視点

人工妊娠中絶の制度は、合法かどうかから週数、事由まで、国によって大きく異なります。「海外はこう」と一括りにはできません。まずは、比較すべき論点を整理しておくと、違いの全体像がつかみやすくなります。

各国の制度を見比べるときは、次のような観点で分けて考えると混乱しません。具体的な週数や事由の数値は国ごとに大きく異なり、法改正で変わることもあるため、ここでは論点の枠組みとして示します。

比較の論点国によって異なる内容の例
合法性広く認める国から、厳しく制限する国まで幅がある
週数制限認められる妊娠週数の上限が国により異なる
許容される事由母体の健康・経済的理由・性犯罪など、範囲が国ごとに違う
胎児条項の有無胎児の状態を事由に含める国と、あえて含めない国がある
費用・公的支援公費でまかなう国と、自己負担が中心の国がある
背景にある価値観宗教・歴史・社会保障の考え方が制度に影響している

合法性・週数・事由は国で大きく異なる

ある国では女性の権利として広く認められ、別の国では宗教的・法的な理由から厳しく制限されています。同じ「認められている」でも、週数の上限や必要な事由はまちまちです。

背景には、宗教観や歴史、社会保障の設計思想の違いがあります。信仰を重んじる社会では、生命の始まりをめぐる考え方が制度に色濃く反映されます。一方、社会福祉の一環として位置づける国もあり、費用負担のあり方も変わってきます。

制度は一度決まれば固定されるものではありません。世論や裁判、政権交代をきっかけに、合法とされる範囲が広がったり狭まったりします。ある国で認められていた条件が、数年後には変わっていることも珍しくありません。だからこそ、古い情報のまま海外の状況を語るのは避けたいところ。

特定の国の週数や事由をここで断定的に並べることは控えます。制度は改正で変わりやすく、正確な数値は各国の一次情報にあたる必要があるためです。大切なのは「国によって前提が違う」という事実を押さえておくことでしょう。

「胎児条項」の有無と歴史的背景

各国の制度を比べるうえで、とりわけ議論になるのが「胎児条項」と呼ばれる、胎児の状態を中絶の事由に含める規定の有無です。これを持つ国もあれば、あえて持たない国もあります。

胎児条項を設ける立場は、重い疾患が想定される場合の選択肢を法律で明示する狙いがあります。一方で、条項を置くこと自体が障害のある人への差別につながりかねない、という懸念も根強くあります。歴史的に優生思想の反省を抱える国では、この条項をめぐる議論が特に慎重です。

日本の母体保護法に胎児条項がないことは、この国際的な議論のなかに位置づけて見ると、意味合いがより立体的に見えてきます。条項がないことは、法律が胎児の状態を選別の基準にしていないことを示すもの。ここを起点に、命の重みをどう考えるかが問われます。

制度の違いから見える「命の選別」をめぐる議論

制度の比較は、最終的に「命をどう考えるか」という倫理の問いにつながります。出生前診断は、医療技術の進歩によって、これまで分からなかった情報を早い段階で得られるようにしました。その分、受け止め方も一人ひとり違います。

検査の結果を理由に妊娠を終える選択について、「命の選別ではないか」という声があります。同時に、家族の状況や体調から、真剣に悩んだ末の選択を尊重すべきだという考えもあります。どちらか一方が正しいと断じられる問題ではありません。

私が相談で感じるのは、多くの方が「正解」を求めているというより、「自分の考えを整理する時間と情報」を求めているということです。制度の知識は、その整理を支える土台になります。命をめぐる考え方の広がりについては、命の選択をめぐる論点をまとめた記事でも扱っています。

制度を知ったうえで、日本で検査を受ける方が確認したいこと

制度を理解したうえで、次に大切になるのは「一人で抱え込まず、専門家と話す環境を整えること」です。各国の制度がどうであれ、日本で検査を受ける方が向き合うのは日本の枠組みと、自分自身の気持ちです。

出生前診断は、受ける前に検査の意味や結果の受け止め方を考えておくことが望まれます。そのための仕組みが遺伝カウンセリングです。専門の担当者と一緒に、検査で分かること・分からないこと、結果が出たあとの選択肢を整理できます。

制度の知識は、迷いをなくす魔法ではありません。それでも、自分がどんな枠組みのなかにいるのかを知っておくと、気持ちの整理は進みやすくなります。日本の制度を土台に、家族と話し、専門家と話す。この順序が、後悔の少ない選択につながると感じています。焦らず一歩ずつ、が基本です。

個人や家族としての選択、遺伝カウンセリングの進め方は別記事にまとめています。詳しくは家族の選択と遺伝カウンセリングを解説した記事をご覧ください。制度の全体像を押さえたら、次はご自身の状況に引き寄せて考えてみましょう。

HUMEDITでは、出生前検査(NIPT)に関するサービスを通じて、検査前後の相談体制を整えています。検査を受けるかどうかで迷っている段階でも、まずは話を聞いてみるところから始められます。超音波検査でどこまでわかるのかは、エコー写真の見方とNT肥厚をご覧ください。検査の限界と注意点は、出生前診断のメリット・デメリットをご覧ください。

よくある質問(FAQ)

出生前診断と中絶の制度について、相談の場で多く寄せられる質問をまとめました。個別の判断は主治医や遺伝カウンセリングでご確認ください。

出生前診断の結果だけで人工妊娠中絶は認められますか?

日本の母体保護法には、胎児の状態そのものを理由とする条項はありません。中絶が認められるのは、母体の身体的・経済的理由や性犯罪による妊娠など、法律が定める事由に該当するときです。あわせて本人と配偶者の同意があり、指定医師が満22週未満に行うことが要件になります。検査結果の受け止め方は、遺伝カウンセリングで相談できます。

日本で人工妊娠中絶が行える期間はいつまでですか?

胎児が母体の外で生命を保てない時期、すなわち満22週未満とされています。この週数は母体保護法の運用として定められており、週数を過ぎると母体保護法による中絶は行えません。手続きは指定医師のもとで行われます。

なぜ国によって中絶の制度がこれほど違うのですか?

宗教観や歴史、社会保障の設計思想が国ごとに異なるためです。生命の始まりをどう考えるか、女性の権利や社会福祉をどう位置づけるかによって、合法性・週数制限・許容される事由が変わります。同じ「認められている」でも、前提となる条件は国によって別物です。

「胎児条項」とは何ですか?日本にはありますか?

胎児条項とは、胎児の状態を人工妊娠中絶の事由に含める規定を指します。これを設ける国もあれば、障害のある人への差別につながる懸念からあえて設けない国もあります。日本の母体保護法には胎児条項はなく、胎児の状態を選別の基準とはしていません。

検査の結果を受けて迷ったとき、誰に相談すればよいですか?

まずは主治医と、出生前検査を専門に扱う遺伝カウンセリングの担当者に相談してください。検査で分かること・分からないこと、結果が出たあとの選択肢を一緒に整理できます。家族としての選択については、遺伝カウンセリングを扱う関連記事もあわせてご覧ください。

海外の週数や事由の数字を、そのまま日本にあてはめてよいですか?

あてはめないでください。制度は国ごとに大きく異なり、法改正でも変わります。海外の数値は各国の一次情報で確認し、日本での判断は母体保護法と主治医の説明にもとづいて行ってください。出生前検査の認証制度については、出生前検査認証制度等運営委員会のサイトが参考になります。

参考・出典

監修:岡 博史(おか ひろし)(ヒロクリニック統括院長/医学博士)

資格:日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会産業医/CAPラボディレクター/東京衛生検査所 指導監督医

所属:医療法人社団福美会 理事

略歴:1996年 慶應義塾大学医学部 卒業/2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得/2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手/2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業/2009年 医療法人社団福美会 理事長/2015年 医療法人社団福美会 理事

担当分野:皮膚疾患・皮膚外科・医療情報全般の監修統括

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