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出生前診断と中絶|家族の選択と遺伝カウンセリング

この記事でわかること

  • 出生前診断と中絶をめぐる「家族の選択」の考え方
  • 人工妊娠中絶を定める母体保護法の基本的な仕組み
  • 母体保護法に「胎児の状態」を理由とする条項がない理由
  • 「命の選別」をめぐって交わされている議論の全体像
  • 出生前診断(NIPT)でわかること・わからないこと
  • 検査の前後に遺伝カウンセリングで相談できること

「出生前診断」と「中絶」という言葉を並べると、答えの出しにくい重い問いに感じられるかもしれません。出生前診断のあとにどの道を選ぶかは、ご本人とご家族が置かれた状況のなかで決めていくもので、あらかじめ決まった正解はありません。この記事では、どちらかの選択をすすめることなく、判断のもとになる制度や検査の仕組み、そして相談できる場所を整理してお伝えします。

迷いや不安を抱えたまま情報を探している方が、少しでも落ち着いて考えを進められるように。事実は正確に、当事者の気持ちには寄り添う姿勢で書きました。読み進めるなかで、いま自分に必要な相談先が見つかることを願っています。

出生前診断と中絶をめぐる「家族の選択」とは

出生前診断は、おなかの赤ちゃんの状態を出産前に知るための検査で、その結果をどう受けとめるかはご家族ごとに異なります。検査を受けること自体が、何かの結論を先に決める行為ではありません。

知ることで安心して出産に臨めた方もいます。予想と違う結果に、長く悩みながら向き合った方もいます。どちらの受けとめ方も、その人の状況のなかで生まれた自然な反応です。

そもそも「家族の選択」という言葉には、生む・生まないという二択だけでなく、検査を受けるかどうか、結果をどう受けとめるか、生まれてくる子とどんな暮らしを準備するか、といった一連の判断が含まれます。どの段階の迷いも、それぞれに重さがあります。

私はこれまで検査前の相談に立ち会うなかで、「正しい選び方を教えてほしい」という声を何度も聞いてきました。けれども、そこにマニュアル的な答えはありません。大切なのは、正確な情報を手にしたうえで、ご夫婦やご家族が納得できるまで話し合える環境です。

この記事のスタンスをはじめにお伝えします。私たちは中絶をすすめることも、否定することもしません。選ぶのはご家族であり、私たちの役目は、その判断に必要な事実と相談先を、正確にそろえておくことだと考えています。

出生前診断について、検査でわかる範囲を先に知りたい方は出生前診断でわかることの解説記事もあわせてご覧ください。

人工妊娠中絶を定める母体保護法の基礎知識

日本の人工妊娠中絶は母体保護法という法律で要件が定められ、都道府県の医師会が指定した「指定医師」だけが行えます。まずは、この制度の枠組みを正確に確認しておきます。

母体保護法が認める2つの要件

母体保護法(昭和23年法律第156号)は、人工妊娠中絶を行える場合を第14条で2つに限っています。おおまかに言えば、次のとおりです。

  • 妊娠の継続や分娩が、身体的または経済的な理由で母体の健康を著しく害するおそれがある場合
  • 暴行や脅迫などによって、本人の意思によらず妊娠した場合

いずれの場合も、原則として本人と配偶者の同意が必要です。ただし配偶者が不明のときや、その意思を表示できないとき、妊娠後に配偶者を亡くしたときなどは、本人の同意だけで足りると定められています。

手術を行えるのは、都道府県の医師会が指定した指定医師に限られます。だれでも実施できるわけではなく、法律と専門職の判断のもとで慎重に扱われる医療行為です。法律の条文そのものは、e-Gov法令検索の母体保護法で確認できます。

中絶が認められる時期と「胎児条項」がない理由

人工妊娠中絶が認められるのは、胎児が母体の外で生命を保てない時期に限られます。運用上は満22週未満、つまり妊娠21週6日までとされ、これを過ぎると法的に行えません。

ここで見落とされがちな事実があります。母体保護法には、胎児の疾患や状態そのものを理由に中絶を認める条項(いわゆる胎児条項)は存在しません。出生前診断の結果を受けての選択は、法律上は母体の健康にかかわる要件の枠組みのなかで扱われているのが実情です。

この点は、当事者にも支援者にもあまり知られていません。制度の建前と現実の運用にはずれがある、という前提を知っておくと、後の話し合いで感情と事実を切り分けやすくなります。

法律の枠組みは、正しく知るほど自分を責める材料ではなくなります。何が認められ、何が認められていないのかを、思い込みではなく条文にそって確認しておくこと。それが、落ち着いて次の相談に進むための最初の一歩になります。専門職に「制度としてどう扱われるのか」を率直に尋ねて構いません。

「命の選別」をめぐる社会的な議論

出生前診断には「命の選別」につながるのではないかという議論があり、これは立場によって見え方が大きく異なります。ここではどちらかに断定せず、交わされている視点を整理します。

一方には、検査が広がることで、障害のある人の生きる価値が問い直されかねない、という懸念があります。当事者やそのご家族が「生まれてこないほうがよかった」と受けとられることへの痛みは、軽く扱ってよいものではありません。

もう一方には、妊婦さんとご家族が現実に置かれる状況への配慮を求める声があります。だれも安易に選んではおらず、多くの方が眠れないほど悩んだ末に判断している、という現実です。

大切なのは、この議論が「社会全体で考えるべき問い」であって、目の前で悩んでいる一人の妊婦さんを裁くための道具ではない、という区別です。社会の論点と、個人の選択は分けて受けとめたいところです。

この2つの立場は対立しているように見えて、どちらも命を大切に思うという点では通じ合っています。相談の場で私が心がけているのは、社会の議論をそのまま個人の責めに変えないこと。この論点をさらに深く知りたい方は命の選別をめぐる考察の記事も参考になります。

出生前診断(NIPT)でわかること・わからないこと

NIPTは母体の血液から胎児の染色体の状態を調べる検査ですが、診断を確定させるものではありません。検査の性質を正しく理解しておくと、結果に振り回されずにすみます。

NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)は、妊婦さんの採血だけで受けられます。主に21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーという3つの染色体の変化について、その可能性を調べる検査です。日本では2013年に臨床研究として始まりました。

ここで大切なのが、確定的検査と非確定的検査の違いです。次の表で整理します。

区分おもな検査特徴
非確定的検査NIPT・コンバインド検査など採血や超音波で「可能性」を調べる。体への負担が小さい
確定的検査羊水検査・絨毛検査診断を確定できる。流産などのリスクを伴う

NIPTはあくまで非確定的検査です。陽性という結果が出ても、それだけで確定はしません。診断をはっきりさせるには、羊水検査などの確定的検査が必要になります。「陽性=病気の確定」ではないという点は、必ず押さえてください。

もう一つ知っておきたいのが、NIPTでわかる範囲は限られているという点です。この検査は主に3つの染色体の変化を対象としており、生まれてくる赤ちゃんのすべての病気や体の状態がわかるわけではありません。検査を受けても、わからないことは残ります。

だからこそ、結果を「安心の保証」でも「不安の確定」でもなく、次に何を確認するかを考えるための一つの情報として受けとめてほしいと思います。検査を受ける施設の選び方については、認証施設の仕組みを解説したNIPTの案内ページも確認しておくと安心です。

検査の前後に受けられる遺伝カウンセリングの役割

遺伝カウンセリングは、検査を受ける前と結果が出た後の両方で、情報の整理と気持ちの支えになる専門的な相談の場です。ひとりで抱え込まないための、大切な入り口だと考えています。

検査前のカウンセリングでは、どんな検査でどこまでわかるのか、結果によってどんな選択肢が考えられるのかを、あらかじめ一緒に確認します。受けるかどうか自体を迷っている段階でも相談できます。

結果が出た後のカウンセリングでは、専門職が中立の立場で情報を伝え、ご家族の考えの整理を手伝います。判断を急かすことはありません。日本産科婦人科学会も、日本産科婦人科学会の公式サイトを通じて検査体制の情報を発信しています。

遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーといった専門職が担います。医学的な情報だけでなく、ご家族の暮らしや気持ちの面まで含めて話せる相手だと考えてください。わからないことを、わからないまま持ち帰らずにすむ場所です。

認証を受けた検査施設や相談先については、出生前検査認証制度等運営委員会のサイトで確認できます。信頼できる場所を選ぶことも、安心して考えを進める土台になります。

結果を受けとめてから家族で話し合いたいこと

どんな結果であっても、その先の選択はご夫婦・ご家族が時間をかけて話し合って決めていくもので、周囲が優劣をつけるものではありません。ここでは、話し合いの助けになる視点を並べます。

まず、いつまでに何を決める必要があるのか、時間の見通しを共有してください。焦りは判断をゆがめます。次に、経済面や医療体制、家族の支えなど、生活の現実的な条件を一つずつ書き出してみましょう。

忘れないでほしいのは、結論を家族だけで抱え込む必要はないということです。主治医、遺伝カウンセラー、地域の相談窓口など、頼れる相手は一人ではありません。同じ立場を経験した家族の会や、公的な支援制度につながる道もあります。

気持ちの面では、どちらの選択を選んでも揺れが残ることがあります。私が相談で伝えているのは、揺れることは弱さではなく、真剣に向き合った証だということ。その揺れごと支えてくれる専門職や制度があります。

そして、どの道を選んだとしても、その選択を後から責める必要はありません。そのときの自分たちが、持てる情報と気持ちのなかで精いっぱい考えて出した答えです。時間がたって揺れ戻すことがあっても、それも含めて一つの歩みだと受けとめてよいのだと思います。

NIPT後の選択と手続きの流れを整理したNIPTと中絶に関する記事も、次の一歩を考えるときの参考にしてください。ひとりで、あるいはご夫婦だけで抱え込まず、専門職に頼ってよいのです。

よくある質問(FAQ)

出生前診断と中絶について、相談の場でよく寄せられる質問をまとめました。

出生前診断の結果を理由に中絶はできますか

母体保護法には胎児の状態そのものを理由とする条項はありません。実際の判断は、母体の健康にかかわる法律上の要件のなかで、指定医師のもとで行われます。まずは主治医や遺伝カウンセリングにご相談ください。

中絶が可能な時期はいつまでですか

胎児が母体の外で生命を保てない時期までとされ、運用上は満22週未満、妊娠21週6日までです。これを過ぎると法的に行えません。時期には余裕を持って相談することをお伝えしています。

NIPTで陽性が出たら必ず病気があるのですか

いいえ。NIPTは非確定的検査で、陽性は「可能性が高い」ことを示すにとどまります。診断を確定するには羊水検査などの確定的検査が必要です。結果だけで結論を急がないでください。

検査を受けるか迷っています。相談だけでもよいですか

もちろん相談できます。遺伝カウンセリングは、受けるかどうかを決める前の段階でも利用できます。検査でわかる範囲や選択肢を一緒に確認したうえで、受けない選択も含めて考えていけます。

「命の選別」だと言われるのがつらいです

社会にはさまざまな議論があります。ただ、現実に悩んで選ぶご本人やご家族を、その言葉で責めることはできません。抱えきれない気持ちは、専門職との相談の場で言葉にしてくださって大丈夫です。

夫婦で意見が分かれています。どうすればよいですか

意見が分かれるのは自然なことです。遺伝カウンセリングでは、第三者である専門職が間に入り、双方の考えや不安を整理する手助けをします。結論を出す前の対話の場としてご利用ください。