ハプログループ一覧|mtDNA・Y染色体の主要系統と分布
この記事でわかること
- ハプログループは母系(mtDNA)と父系(Y染色体)の2系統で別々に分類される
- mtDNAの大きな枝はL→M・N→R、Y染色体はA〜DやOなどに分かれる
- 各系統の分布は地域の傾向であり、国境や民族と厳密には一致しない
- 日本列島ではY染色体のD・O、mtDNAのD・B・M7などが比較的多いとされる
- 系統は分類・推定であって、優劣や純血を示すものではない
ハプログループ一覧は、母系のミトコンドリアDNA(mtDNA)と父系のY染色体という2系統を、アルファベットの記号で分類し、大まかな地理的分布とあわせて整理したものです。この記事では、それぞれの主要な系統と、その系統が比較的多いとされる地域を一覧でまとめます。分布はあくまで傾向であり、優劣を示すものではありません。ハプログループそのものの意味を先に知りたい方は、ハプログループとは?母系・父系のルーツを解説もあわせてご覧ください。
ハプログループ一覧の前に|母系(mtDNA)と父系(Y染色体)
ハプログループの一覧は、母系のmtDNAと父系のY染色体で完全に別の体系になっているため、まず2系統を分けて読むのが基本です。同じアルファベットでも、母系と父系ではまったく別の系統を指します。混同しないよう、最初に押さえておきましょう。
母系のmtDNAは、母親から子へ性別に関係なく受け継がれます。父系のY染色体は、父から息子へと受け継がれ、男性だけが持ちます。そのため、一人の人がたどれる系統は最大でも母系と父系の2本です。祖先全体のごく一部の道すじを見ている、という前提を忘れないでください。
記号のアルファベットは、変異(マーカー)が積み重なった順に付けられた系統樹のラベルです。AがBより優れている、といった意味は一切ありません。ここからは、母系・父系の順に主要な系統を一覧にしていきます。なお同じmtDNAのHと、Y染色体のHは無関係な別系統です。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループの主要系統一覧
母系のmtDNAは、アフリカで生まれたL系統を根として、L3からM系統とN系統が分かれ、さらにNからR系統が枝分かれした大きな流れで整理できます。まずは幹となる分岐を押さえると、細かい記号も位置づけやすくなります。
mtDNAの大きな分岐|L → M・N → R
すべての母系は、共通の母系祖先(ミトコンドリア・イブと呼ばれることがあります)にさかのぼるとされます。これは「当時ただ一人の女性」という意味ではなく、現在の母系をたどると共通の一点に収束するという統計的な考え方です。そこから枝分かれした主な系統を、下の表に整理しました。
| 系統(記号) | 大まかな分岐の位置 | 比較的多いとされる地域 |
|---|---|---|
| L(L0〜L6) | 最初期に分かれた母系の根 | サハラ以南のアフリカ |
| M | L3から分岐しユーラシア東側へ | 東アジア・南アジア・オセアニア・アメリカ大陸の一部 |
| N | L3から分岐し各地へ | 広く各地(多くの系統の親) |
| R | Nから分岐した大きな枝 | ユーラシア全域〜各地 |
| H | Rの下位の枝 | ヨーロッパ(住民のおよそ4割とされる) |
| U(U5など) | Rの下位で古い枝 | ヨーロッパ・西アジア・北アフリカ |
| J・T | Rの下位。農耕の広がりと語られる枝 | 中東・ヨーロッパ |
| B・F | Rの下位でアジアに多い枝 | 東アジア・東南アジア・オセアニア |
| A・C・D | NやMの下位で北・東アジア系の枝 | シベリア・東アジア・南北アメリカ先住 |
Rは、ヨーロッパに多いHやU、アジアに多いBやFなど、幅広い枝の親にあたります。世界の母系の多くがRの下につながるため、一覧のなかでも要になる系統です。一方でL系統は、Rより前に分かれたアフリカの古い枝として位置づけられます。まずL・M・N・Rの前後関係を押さえると、H以下の枝も迷わず追えます。
表のとおり、mtDNAはL・M・N・Rという幹を軸に、H・U・J・Tといった枝が広がっていきます。私が最初にこの一覧を見たときは記号の多さに戸惑いましたが、まず幹の4文字を覚えると、あとの枝がどこにつながるかを追いやすくなりました。細かい下位系統の呼び名は研究の進展で更新されることがあります。だからこそ、記号を丸暗記するより、まず幹から追ってみてください。
日本列島で比較的多いとされるmtDNA系統
日本列島の母系では、D系統(とくにD4)やB、M7、G、A、N9、Fなどが比較的多いとされます。なかでもM7aは、南方に由来する古い系統として語られることがあります。ただしこれらは傾向であり、一人ひとりの結果は個別に判定される点に注意してください。
母系がどのように母親から伝わるのか、その仕組みそのものを知りたい方は、ミトコンドリアDNA解析とは|手法・用途と限界を解説で詳しく整理しています。一覧の記号がどう決まるのか、背景がつかみやすくなります。
Y染色体ハプログループの主要系統一覧
父系のY染色体は、アフリカのA・Bを根として、C・D・E・F系統へ広がり、Fの下からG〜Rの多くの系統が枝分かれした流れで整理できます。母系とは別の体系である点を、あらためて意識して読んでください。
A・BからD・O・Rまでの大きな枝分かれ
すべての父系も、共通の父系祖先(Y染色体アダムと呼ばれることがあります)にさかのぼるとされます。これも「当時ただ一人の男性」という意味ではなく、現在の父系が共通の一点に収束するという考え方です。主な系統と、比較的多いとされる地域を下の表にまとめました。
| 系統(記号) | 大まかな分岐の位置 | 比較的多いとされる地域 |
|---|---|---|
| A | 最初期に分かれた父系の根 | サハラ以南のアフリカ |
| B | 初期に分かれた枝 | 中部〜西部アフリカ |
| C | ユーラシア東側〜オセアニアへ | 中央・北アジア、オセアニア、アメリカ先住 |
| D | 分布が飛び地状に分かれる枝 | 日本列島・チベット・アンダマン諸島 |
| E | アフリカ中心に中東・地中海へ | アフリカ、北アフリカ・地中海沿岸 |
| G・I・J | 中東〜ヨーロッパ・カフカスの枝 | 中東、ヨーロッパ、地中海沿岸 |
| N | 北ユーラシアに広がる枝 | 北欧・バルト地域・シベリア |
| O | 東・東南アジアで主要な枝 | 中国・日本・朝鮮半島・東南アジア |
| Q | アジアからアメリカへ渡った枝 | シベリア・南北アメリカ先住 |
| R(R1a・R1b) | ユーラシア西・南に広がる枝 | ヨーロッパ・南アジア・中央アジア |
Y染色体は、母系よりも枝分かれの記号が多く感じられます。とはいえ大枠は、アフリカのA・B、東ユーラシアのC・D・O、西ユーラシアのG・I・J・Rといった地域のまとまりで追えます。R1bは西ヨーロッパ、R1aは東ヨーロッパから南アジアで比較的多いとされる、といった具合です。
F系統は、アフリカの外へ広がった多くの父系の親にあたる枝です。G・I・J・N・O・Q・Rといった系統は、たどっていくとFの下につながります。記号の数に圧倒されそうでも、幹をF・K・Pと大づかみに追えば、地域ごとのまとまりが見えてきます。細かい下位区分から入るより、この幹からたどる読み方が近道です。
日本列島で比較的多いとされるY染色体系統(D・O)
日本列島の父系では、D系統とO系統が比較的多いとされ、C系統も一定みられるという傾向が語られます。D系統は古い時代からの系譜と、O系統は大陸からの人の流れと関連づけて説明されることがあります。いずれも傾向としての話で、優劣や純血とは無関係です。
なお、D系統の下位区分(かつてD1bと呼ばれた枝など)の記号は、研究の進展にともなって呼び名が改訂されてきました。古い資料と新しい資料で表記が違うこともあります。細かい記号よりも、まずD・Oという大枠でとらえると混乱しにくいでしょう。
ハプログループの地理的分布をどう読むか
分布は「その地域に比較的多い傾向」を示すもので、国境・民族・国籍と一対一で結びつくものではありません。一覧の地域名は、あくまで大づかみの目安として読んでください。
人類は歴史のなかで移動と混血を繰り返してきました。そのため、同じ地域にも複数の系統が入りまじり、ある系統が別の地域に飛び地状に残ることもあります。Y染色体のDが日本列島・チベット・アンダマン諸島という離れた場所で見られるのは、その代表例です。
分布の「多い・少ない」は、その地域で調べた人のうち何割がその系統だったか、という割合で語られます。割合は、調査した集団や時代によって動きます。同じ地域でも、資料によって数字が違うのはそのためです。一覧の地域名は、こうした幅を含んだ大づかみの目安として受け止めてください。数値の細かな差にとらわれる読み方は要りません。
大切なのは、系統の記号や分布を優劣・純血の話に結びつけないことです。ハプログループは祖先の道すじをたどる手がかりであって、人の能力や価値を測る指標ではありません。ヒトの遺伝や集団の成り立ちを学術的に確かめたいときは、国立遺伝学研究所や日本人類遺伝学会、展示で学ぶなら国立科学博物館などの情報源が参考になります。
私自身、一覧の地域欄を「◯◯人=この系統」と読み違えかけたことがあります。実際には一つの地域に複数の系統が同居していて、単純な線引きはできません。分布はグラデーションだと考えると、一覧をおだやかに受け止められます。
一覧を自分ごとにする|調べ方と関連ページ
自分がどの系統に属するかは、mtDNAまたはY染色体を読み取るDNA検査で推定でき、母系は誰でも、父系は男性の検体で調べられます。一覧を眺めるだけでなく、自分の系統を知りたくなったら次の流れを参考にしてください。
- 調べ方を知る:採取から解析、結果の見方までの手順はハプログループを調べる方法|手順と母系・父系の違いにまとめています。
- 全体像を押さえる:3系統でルーツを推定する仕組みは祖先遺伝子検査とは|3系統でルーツを推定する仕組みと限界で解説しています。
- 検査の受託を相談する:HUMEDITの遺伝子検査事業では、解析の受託に関する相談を受け付けています。
母系は自分の検体だけでたどれます。女性が父系を知りたいときは、父や兄弟など男性親族の検体が必要です。結果として得られるのは記号による系統の推定で、一覧の地域欄はその系統が比較的多い地域を示すにすぎません。数値の断定ではなく、ルーツをたどる手がかりとして受け取ってください。一覧のどの系統に自分が近いのか、まずは調べたい系統を決めてみましょう。自分に合う進め方が分からないときは、専門スタッフにお気軽にご相談ください。
ハプログループ一覧に関するよくある質問
一覧を読むときに多くの方が気になる点を、質問形式でまとめました。系統の見方の参考にしてください。
ハプログループの記号は全部でいくつありますか?
母系(mtDNA)と父系(Y染色体)で体系が別々にあり、それぞれ数十以上の系統に細かく枝分かれします。研究の進展で下位系統は追加・改訂されるため、確定した総数を示すのは難しいのが実情です。この記事では、大きな幹となる主要系統を中心に一覧化しています。
mtDNAとY染色体のハプログループは同じ記号ですか?
いいえ、別々の体系です。同じアルファベット、たとえばmtDNAのHとY染色体のHは、まったく無関係な系統を指します。一覧を読むときは、母系の表と父系の表を分けて見てください。混同すると、分布の解釈を取り違えてしまいます。
日本人に多いハプログループはどれですか?
父系ではD系統とO系統が比較的多いとされ、母系ではDやB、M7などが比較的多いとされます。ただし、これは列島全体の傾向にすぎません。一人ひとりの系統は検査で個別に判定され、地域や家系によっても偏りがあります。傾向と個人の結果は分けて考えてください。
分布はその国の民族と一致しますか?
一致しません。分布は「その地域に比較的多い傾向」を示すもので、国境や民族、国籍と一対一では結びつきません。人類は移動と混血を重ねてきたため、同じ地域に複数の系統が入りまじっています。優劣や純血の話にはつながらない点を、あわせて押さえておいてください。
自分のハプログループはどうすれば分かりますか?
DNA検査で、mtDNA(母系)またはY染色体(父系)のマーカーを読み取って推定します。母系は自分の検体だけで、父系は男性の検体で調べられます。手順はハプログループを調べる方法にまとめています。まず調べたい系統を決めてください。