低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは|原因と治療を解説
この記事の概要
低ゴナドトロピン症(Hypogonadotropic Hypogonadism)は、脳下垂体や視床下部の異常によってゴナドトロピン(LHおよびFSH)が十分に分泌されないため、性腺(卵巣や精巣)の機能が低下する疾患です。この結果、性ホルモン(エストロゲンやテストステロン)が不足し、性成熟や生殖機能に異常が生じます。低ゴナドトロピン症は、視床下部-下垂体-性腺軸の障害によって引き起こされるため、「中枢性性腺機能低下症」とも呼ばれます。
この記事でわかること
- 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とはどのような状態か
- 「低ゴナドトロピン性」と「高ゴナドトロピン性」で機序が逆になる理由
- カルマン症候群・特発性・下垂体疾患・体重減少など主な原因
- 第二次性徴の遅れ・無月経・不妊などの症状
- ホルモン検査・画像・遺伝子検査による診断の流れ
- ホルモン補充や排卵・精子形成の誘導など治療の考え方
- 遺伝子検査でわかることと、その限界
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症は、視床下部(GnRH)や下垂体(FSH・LH)の異常でゴナドトロピンが低下し、その結果、卵巣や精巣が十分に刺激されず機能が低下する状態です。中枢が引き金になるため、中枢性(二次性)性腺機能低下症とも呼ばれます。この記事では、定義から原因、症状、診断、治療までを、公的機関の情報をもとに非断定で整理します。
私は遺伝子検査の現場で、思春期の遅れや無月経に不安を抱える方の相談に立ち会うことがあります。疾患名の響きは重く感じられても、仕組みを一つずつたどれば落ち着いて次の一歩を考えられます。まずは「どこに原因があるのか」から確認していきましょう。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは|中枢の異常でホルモンが低下する状態
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは、視床下部や下垂体という中枢側の異常でゴナドトロピンが低下し、性腺が刺激されずに機能が下がる状態を指します。英語ではHypogonadotropic Hypogonadismと表記されます。
私たちの体では、視床下部から出るGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が下垂体を刺激します。刺激を受けた下垂体はFSHとLHという2つのゴナドトロピンを分泌します。このFSHとLHが卵巣や精巣に届くことで、女性ホルモンや男性ホルモンがつくられる仕組みです。
この経路の上流、つまり視床下部か下垂体でつまずくと、FSHとLHが十分に出ません。命令が届かない性腺は活動を落とし、性ホルモンが不足します。ホルモンの全身への働きは、日本内分泌学会の一般向け情報も参考になります。
「低ゴナドトロピン性」が意味すること
「低ゴナドトロピン性」とは、性腺を動かすゴナドトロピン(FSH・LH)が低い、または不適切に正常であることを表します。血液検査でこの値を確かめることが、状態を見分ける手がかりになります。
性ホルモンが低ければ、本来はFSHとLHが増えて性腺を強く促そうとします。ところが中枢が原因の場合、その増加が起こりません。性ホルモンが低いのにゴナドトロピンも低い、この組み合わせが特徴です。
中枢性(二次性)性腺機能低下症という位置づけ
原因が視床下部・下垂体という中枢側にあるため、低ゴナドトロピン性は「中枢性」「二次性」の性腺機能低下症に分類されます。性腺そのものは、指令さえ届けば働ける状態のことが多いといえます。
この分類は、治療の道筋を考えるうえで意味を持ちます。中枢が原因なら、不足しているホルモンを外から補ったり、性腺への指令を薬で代替したりする方向が検討されます。診断名の背景にある「どこがつまずいているか」を知ることが、次の相談につながります。
高ゴナドトロピン性性腺機能低下症との違い|FSH・LHが高いか低いか
低ゴナドトロピン性と高ゴナドトロピン性は、原因の部位とFSH・LHの高さが正反対で、ここを取り違えると理解が大きくずれます。両者を分ける鍵は、ゴナドトロピンの値。
高ゴナドトロピン性は、卵巣や精巣という性腺そのものが一次的に障害されるタイプです。性腺が働けないため性ホルモンは低下しますが、中枢は「もっと働け」と信号を強め、FSHとLHはむしろ高くなります。低ゴナドトロピン性とは、まさに逆の反応。
| 項目 | 低ゴナドトロピン性(中枢性・二次性) | 高ゴナドトロピン性(性腺性・一次性) |
|---|---|---|
| 障害の部位 | 視床下部・下垂体 | 卵巣・精巣(性腺そのもの) |
| FSH・LH | 低い、または不適切に正常 | 高い |
| 性ホルモン | 低い | 低い |
| 代表的な例 | カルマン症候群、下垂体疾患、体重減少 | ターナー症候群、原発性卵巣機能不全、精巣の障害 |
FSHやLHが高くなる高ゴナドトロピン性については、高ゴナドトロピン症とはの記事で詳しく整理しています。あわせて読むと、2つのタイプの違いがはっきりします。
主な原因|カルマン症候群・特発性・下垂体疾患・体重減少など
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の原因は、生まれつきの発生異常から、後天的な下垂体疾患や体重減少まで幅広く分かれます。大きく先天性と後天性に整理できます。
カルマン症候群(GnRHニューロンの発生異常と嗅覚障害)
カルマン症候群は、GnRHをつくる神経細胞(GnRHニューロン)が胎児期にうまく移動・発生できず、嗅覚の障害を伴う先天性のタイプです。嗅覚をつかさどる神経とGnRHニューロンの発生が、途中まで同じ経路をたどることが背景にあります。
GnRHニューロンが本来の場所に届かないと、GnRHが出せず、下垂体も動きません。においを感じにくい、あるいはわからないという嗅覚障害を伴う点が、他の原因と見分ける手がかりになります。ANOS1(KAL1)、FGFR1、PROKR2、PROK2、CHD7などの遺伝子が関わると報告されていますが、原因遺伝子が特定できないことも少なくありません。
カルマン症候群を含む特発性のタイプは、国内で難病として位置づけられています。制度や病態の解説は難病情報センターの情報が参考になります。
特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
嗅覚が保たれているのにGnRHの分泌が乏しいタイプは、特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と呼ばれます。カルマン症候群と連続した病態としてとらえられることもあります。
思春期が来ない、あるいは途中で止まる形で気づかれることがあります。遺伝子の変化が見つかる例もあれば、はっきりした原因にたどり着けない例も残ります。診断は、症状とホルモン値、家族歴を合わせて専門医が慎重に進めます。
下垂体・視床下部の疾患
下垂体の腫瘍や視床下部への影響を及ぼす病変も、ゴナドトロピンの分泌を妨げる後天的な原因です。代表的なのは、下垂体にできる腫瘍。
プロラクチンを多く出す腫瘍(プロラクチノーマ)では、プロラクチンの上昇がGnRHの働きを抑えることが知られています。頭部の外傷、手術や放射線治療の影響、まれな炎症性の病変なども、中枢の機能を損なう要因です。原因となる病変の有無は、画像検査で確かめます。
体重減少・過度な運動・全身疾患など(機能性)
極端な体重減少や過度な運動、強いストレスは、視床下部の働きを一時的に抑えてゴナドトロピンを下げます。器質的な病変がなくても起こる、機能性の低下です。
摂食障害や激しいトレーニング、慢性の全身疾患などが背景になることがあります。体が「今は生殖より生存を優先する」と判断するように、GnRHの拍動が弱まると考えられています。原因となる状態が改善すると、月経やホルモンが戻る例も報告されています。回復の見通しは、状態によって専門医が判断します。
主な症状|第二次性徴の遅れ・無月経・不妊など
症状は性ホルモンの不足を反映し、思春期の遅れや無月経、不妊といった形であらわれます。気づかれる時期は、思春期前後が多い傾向。
男性と女性で、目立つ変化に違いがあります。共通するのは、性腺が刺激されないことで生じる二次性徴の遅れや妊よう性への影響です。下の表に、代表的な症状を整理しました。
| 対象 | みられやすい症状 |
|---|---|
| 男性 | 精巣が発育しにくい、声変わり・筋肉や体毛の発達の遅れ、精子形成の低下、性欲や筋力の低下 |
| 女性 | 乳房の発達の遅れ、月経が来ない(原発性無月経)または止まる(続発性無月経)、排卵が起こりにくい |
| 共通 | 不妊、骨量への影響、思春期全体の遅れ |
女性で卵巣側が原因となる状態には、原発性卵巣機能不全症があります。中枢性との違いを知りたい方は、原発性卵巣機能不全症とはの記事もあわせてご覧ください。症状の出方には個人差があり、自己判断は禁物です。気になる変化があれば、早めに専門の医療機関へ相談してください。
診断|ホルモン検査・画像・遺伝子検査で原因を確かめる
診断は、血液中のホルモン値を確かめ、画像や遺伝子検査で原因の部位や背景を探る流れで進みます。出発点は、FSH・LHと性ホルモンの測定です。
低ゴナドトロピン性では、性ホルモンが低いのにFSHとLHも低い、または不適切に正常という組み合わせが確かめられます。GnRHに対する下垂体の反応をみる負荷試験が行われることもあります。中枢に腫瘍などの病変がないかは、MRIなどの画像検査で確認します。
カルマン症候群など先天性が疑われる場合は、嗅覚の評価や遺伝子検査が手がかりになります。ANOS1(KAL1)やFGFR1などの遺伝子を調べることがありますが、原因を1つに絞れないことも。どの検査を選ぶかは、症状や家族歴をふまえて医師が判断します。
治療|ホルモン補充と排卵・精子形成の誘導
治療は、不足したホルモンを補う補充療法と、妊よう性を目指す場合の排卵・精子形成の誘導が柱になります。目的によって選ぶ方法が変わります。
思春期の発来や二次性徴、骨量の維持などを目的に、女性ではエストロゲンとプロゲステロン、男性ではテストステロンを補う方法がとられることがあります。妊よう性を希望する場合は、FSHやLHを補うゴナドトロピン療法や、GnRHを拍動的に投与する方法で、排卵や精子形成を促す治療が検討されます。
下垂体腫瘍などが原因なら、その病変への治療が優先されることもあります。どの治療がどれだけ効くか、いつ始めるかは一人ひとり異なり、専門医が個別に判断する領域です。効果や適応を断定はできないため、必ず主治医に相談してください。心理面の負担には、カウンセリングなどの支えも役立ちます。
遺伝子検査でわかることと、その限界
遺伝子検査は先天性の原因をしぼり込む手がかりになりますが、すべての原因が判明するわけではありません。結果の受け止め方には、事前の理解が欠かせません。
カルマン症候群や特発性のタイプでは、複数の遺伝子が関わると報告されています。関連が知られる遺伝子に変化が見つかれば、診断や家族への説明の助けになります。一方で、現在わかっている遺伝子だけでは原因を説明しきれない例も残るのが実情です。
だからこそ、検査を受ける前後で専門家の説明を受けることが役立ちます。遺伝にまつわる相談は、日本人類遺伝学会が案内する遺伝カウンセリングの枠組みが参考になります。検査全般の基礎は遺伝子検査とはの記事で整理しています。
当社は板橋衛生検査所を運営し、遺伝子検査に取り組んでいます。検査への姿勢や事業内容は遺伝子検査事業のページで紹介しています。検査を受けるかどうかは、目的や家族歴をふまえて決めてください。判断に迷うときは、下のフォームからお気軽にご相談ください。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に関するよくある質問
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症とは何ですか?
視床下部や下垂体という中枢側の異常でゴナドトロピン(FSH・LH)が低下し、卵巣や精巣が十分に刺激されずに機能が下がる状態です。性ホルモンが低いのにFSH・LHも低い点が特徴で、中枢性(二次性)性腺機能低下症とも呼ばれます。原因や治療は専門医が個別に判断します。
高ゴナドトロピン性とは何が違うのですか?
障害の部位とFSH・LHの高さが逆です。低ゴナドトロピン性は中枢が原因でFSH・LHが低く、高ゴナドトロピン性は卵巣や精巣そのものが障害され、負のフィードバックが外れてFSH・LHが高くなります。どちらも性ホルモンは低下しますが、機序は正反対です。
カルマン症候群とはどのような病気ですか?
GnRHをつくる神経細胞が胎児期にうまく発生・移動できず、嗅覚の障害を伴う先天性の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症です。においを感じにくい点が見分ける手がかりになります。ANOS1(KAL1)やFGFR1などの遺伝子が関わると報告されていますが、原因が特定できないこともあります。
遺伝子検査を受ければ原因は必ずわかりますか?
必ずわかるとは限りません。関連が知られる遺伝子に変化が見つかることもありますが、現在の技術では原因を1つに絞れない例も残ります。検査を受けるかどうかは、目的や家族歴をふまえ、遺伝カウンセリングなどで専門家と相談して決めてください。
妊娠や子どもをもつことはできますか?
一律に難しいと決まるものではありません。FSHやLHを補うゴナドトロピン療法や、GnRHを拍動的に投与する方法で、排卵や精子形成を促す治療が検討されることがあります。適応や効果は個別に異なるため、妊よう性を希望する場合は早めに専門医へ相談してください。
体重や運動が原因のこともありますか?
あります。極端な体重減少や過度な運動、強いストレスは視床下部の働きを抑え、ゴナドトロピンを下げることがあります。器質的な病変がない機能性の低下で、原因となる状態が改善すると月経やホルモンが戻る例も報告されています。回復の見通しは専門医が判断します。