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胎児cfDNAとは|母体血中の由来としくみを解説

この記事の概要

胎児由来のcfDNA(cell-free DNA: 無細胞DNA)の抽出は、通常妊娠10週目頃から可能です。cfDNAは、胎児のDNAが母体の血液中に微量に存在するため、母体からの血液サンプルを使用して胎児の遺伝情報を解析できます。

胎児cfDNAとは母体血中の由来としくみ

この記事でわかること

  • cfDNA(セルフリーDNA)とは、血液中を漂う短いDNAの断片であること
  • 妊娠中の「胎児由来cfDNA(cffDNA)」が、厳密には胎盤の細胞に由来する理由
  • 胎児分画(fetal fraction)という考え方と、値が変わる要因
  • cffDNAが妊娠初期から検出でき、分娩後は速やかに消える性質
  • 胎盤由来ゆえに起こりうる偽陽性(胎盤限局性モザイク)のしくみ
  • cfDNAがNIPTなどの検査に使われる、基礎としての位置づけ

胎児cfDNAとは、妊娠中の母体の血液中に漂う、胎児(正確には胎盤)に由来する短いDNAの断片のことです。「胎児のDNAが母親の血に流れている」と聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。この記事では、その断片がどこから来て、どのくらいの量あり、いつ消えるのかという生物学の基礎に絞って解説します。NIPTという検査そのものの仕組みや精度は、NIPTの仕組みを解説した記事にゆずり、ここでは土台となるcfDNAの性質を丁寧に整理します。

胎児cfDNAとは何かを整理する

胎児cfDNAとは、母体の血液中に含まれる、胎盤由来の短いDNA断片を指す言葉です。まずは土台となる「cfDNA」という言葉から順に見ていきましょう。ここを押さえると、後の話がぐっと分かりやすくなります。

cfDNA(セルフリーDNA)は血液を漂う短い断片

cfDNAは、cell-free DNA(セルフリーDNA)の略です。細胞の外に出て、血液の液体成分である血漿の中を漂っているDNAを指します。ふだんDNAは細胞の核の中に、きちんと折りたたまれて収まっています。ところが古くなった細胞が寿命を迎えると、その中身が断片になって血流へ放たれます。

血中を漂うcfDNAは、長いものではありません。多くはおよそ150〜200塩基対ほどの、ごく短い断片とされています。DNAの二重らせんという基本構造については、DNAの構造と機能の解説もあわせてご覧ください。もとの長い設計図が、こまかくちぎれて流れているイメージです。

妊娠中の母体血に含まれる「胎児由来」cfDNA(cffDNA)

妊婦さんの血液中には、母親自身の細胞から出たcfDNAに加えて、赤ちゃん側に由来するcfDNAも混ざっています。この胎児側のものを、cffDNA(cell-free fetal DNA)と呼びます。母体由来と胎児由来が入りまじった状態で、血漿の中を漂っているわけです。

私ははじめてこの話を知ったとき、母と子の情報がひとつの血液に同居している事実に、静かな驚きを覚えました。目には見えない小さな断片が、命のつながりをそっと語っている。そんな見方をすると、cfDNAという言葉が少し身近に感じられます。

「胎児由来」は正確には胎盤由来|どこから来るのか

cffDNAは「胎児由来」と呼ばれますが、その多くは赤ちゃんの体そのものではなく、胎盤の細胞に由来します。ここは誤解されやすい大切なポイントです。呼び名と実際の出どころに、少しずれがあります。

栄養膜細胞のアポトーシスが主な供給源

胎盤は、母体と胎児をつなぐ器官です。その表面をおおう栄養膜細胞(トロホブラスト)は、胎児と同じ受精卵から育った細胞になります。この栄養膜細胞が、役目を終えてアポトーシス(計画された細胞死)を起こすとき、中のDNAが断片として母体血へ入っていきます。これがcffDNAの主な供給源とされています。

つまりcffDNAは、赤ちゃんの体から直接こぼれ落ちたDNAではありません。胎盤という「窓口」を通じて母体血に届く、胎盤由来のDNAと理解するのが正確です。多くの場合、胎盤の遺伝情報は胎児のそれとよく一致します。だからこそ検査の手がかりになるのですが、両者が完全に同じとは限りません。

胎盤限局性モザイクと偽陽性の関係

胎盤と胎児で、染色体の状態が食い違うことがあります。これを胎盤限局性モザイクと呼びます。胎盤の一部だけに染色体の変化があり、胎児本体には見られない、といった状態です。

cffDNAは胎盤由来のため、この食い違いが結果に影を落とすことがあります。胎盤側の変化を拾ってしまい、実際の胎児とは異なる所見につながる。これが偽陽性を生む一因として知られています。血液を調べる検査が「確定診断」ではなく、あくまで可能性を示す非確定的な検査に位置づけられる理由も、ここにあります。気になる所見が出た場合は、羊水検査などの確定的検査で確かめる流れが取られます。

母体血漿中を漂う胎盤由来のcfDNA断片のイメージ

胎児分画(fetal fraction)とは

胎児分画(fetal fraction)とは、母体血中のcfDNA全体のうち、胎盤由来のcffDNAが占める割合のことです。血液の中では、母体由来のcfDNAのほうが多数を占めます。その中に混じるcffDNAの比率が、検査を考えるうえで鍵になります。

母体血中のcfDNAは、大部分が母親自身に由来します。cffDNAはそのうちの一部にとどまります。この胎児側の割合が低すぎると、胎児の情報を読み取りにくくなります。そのため多くの検査では、一定以上の胎児分画が確保できる時期を見て採血が行われます。

fetal fractionを左右する要因

胎児分画は一定ではなく、いくつかの条件で変わります。代表的な要因を表にまとめました。数値は個人差が大きいため、ここでは傾向として捉えてください。

要因胎児分画への傾向補足
妊娠週数週数が進むにつれて高まりやすい早すぎる時期は割合が低くなりやすい
母体の体格(体重)体重が大きいと低くなりやすい傾向が報告母体由来cfDNAが増える影響とされる
胎盤の状態胎盤の量や状態で変わりうる個々の妊娠で幅がある

とくに妊娠週数の影響はよく知られています。ごく早い時期は胎児分画が十分に集まらず、判定が難しくなりがちです。母体の体重が大きい場合に割合が下がりやすい、という傾向も報告されています。これらは「必ずそうなる」という断定ではなく、あくまで統計的な傾向として理解してください。

いつから検出でき、いつ消えるのか

cffDNAは妊娠のごく初期から母体血中に現れ、出産後は速やかに消えていきます。この「現れて、消える」というリズムが、cffDNAの大きな特徴です。妊娠ごとに新しく生まれ変わる情報だと言えます。

cffDNAは妊娠の早い段階から検出できるとされています。ただし、ごく初期は量が少なく、割合も安定しません。検査に十分な胎児分画が見込める時期を待って採血する、というのが一般的な考え方です。この「いつから」という点は、検査の受け方に直結します。

分娩後すぐに消えるため妊娠ごとに新しい

cffDNAは、血液中での寿命がとても短いことで知られます。半減期は短く、分娩によって胎盤が母体から離れると、供給がとだえます。その結果、出産後は比較的短い時間で母体血中から消えていくとされています。

この性質には、実は大きな意味があります。前回の妊娠のcffDNAが次の妊娠まで残らないため、検査で調べているのは、今おなかにいる赤ちゃんの胎盤に由来する情報だと考えられます。過去の妊娠が結果に混ざり込む心配は、基本的にありません。妊娠ごとにリセットされる、まっさらな情報。私はこの仕組みの潔さに、生命のよくできた設計を感じます。

cfDNAとNIPTの関係|検査に使われる基礎

母体血中のcffDNAを読み解く技術が、NIPT(非侵襲的出生前検査)の土台になっています。ここまで見てきたcfDNAの性質が、そのまま検査の原理につながります。ただし本記事は生物学の基礎に主眼を置くため、検査の詳しい仕組みは別記事に案内します。

母体からの採血だけで胎児側の情報にアクセスできるのは、cffDNAが血漿中に漂っているからです。針を胎内に刺す必要がないため、母体や胎児への負担が小さい検査として広まりました。採血した血液からcfDNAを取り出し、そこに含まれる胎児分画を手がかりに解析します。

どの染色体を、どんな方法で、どこまでの精度で調べるのか。その具体的な仕組みや精度・限界は、NIPTの仕組みを解説した記事でくわしく整理しています。検査の対象疾患や受け方の全体像は、NIPTとは何かの解説もあわせてご覧ください。本記事のcfDNAの知識は、これらの検査記事を読み解く前提になります。

なお、出生前検査を検討するときは、公的な情報源にも目を通しておくと安心です。出生前検査認証制度等運営委員会日本産科婦人科学会が、制度や考え方の情報を公開しています。検査は受ける前に、その意味をよく知っておいてください。

cfDNAと他の核酸との違い

母体血中を漂うのはDNAの断片だけでなく、RNAなど別の核酸も存在します。cfDNAの位置づけをはっきりさせるために、近い言葉との違いを軽く整理しておきます。混同しやすいところなので、ここで線を引いておきましょう。

cfDNAはあくまでDNAの断片です。一方で血中には、胎盤由来のRNAなども見つかっています。DNAが「設計図そのもの」だとすれば、RNAはその写しや調整役にあたります。タンパク質に翻訳されないRNAの働きについては、非翻訳性RNAとは何かの解説で紹介しています。cffDNAの検査を理解するうえでは、まず「短いDNAの断片を調べている」という一点を押さえれば十分です。

HUMEDITの遺伝子検査への取り組み

株式会社HUMEDITは、板橋衛生検査所を自社で運営し、検査の一次データを扱う立場から遺伝子解析に取り組んでいます。登録衛生検査所として、各種検査の実務を積み重ねてきました。血液という身近な検体から、どんな情報をどこまで読み取れるのか。その現場感覚を土台に情報を発信しています。

cfDNAのように、目に見えない小さな断片を扱う検査は、原理を正しく知ってはじめて結果を落ち着いて受け止められます。何を調べていて、何は分からないのか。その線引きを、専門家と一緒に整理する価値は大きいものです。事業の内容はHUMEDITの遺伝子検査事業のページで紹介しています。検査や解析についてのご相談は、どうぞお気軽にお寄せください。

よくある質問(FAQ)

胎児cfDNAについて、よく寄せられる疑問をまとめました。個別の検査の判断は、医療機関への相談が前提となる点にご留意ください。

Q1. 胎児cfDNAとは何ですか?

妊娠中の母体の血液中に漂う、胎児側に由来する短いDNAの断片です。cffDNA(cell-free fetal DNA)とも呼ばれます。多くは150〜200塩基対ほどの短い断片で、母親自身のcfDNAと混じり合った状態で血漿中に存在します。

Q2. なぜ「胎児由来」なのに胎盤由来と言われるのですか?

cffDNAの主な供給源が、胎盤の表面をおおう栄養膜細胞だからです。この細胞は胎児と同じ受精卵から育ちますが、赤ちゃんの体そのものではありません。栄養膜細胞のアポトーシスによって、DNAの断片が母体血へ入ると考えられています。そのため厳密には胎盤由来と表現されます。

Q3. 胎児分画(fetal fraction)とは何ですか?

母体血中のcfDNA全体のうち、胎盤由来のcffDNAが占める割合のことです。血液の中では母体由来のcfDNAが多数を占め、cffDNAはその一部です。妊娠週数や母体の体格などによって変動するとされ、割合が低すぎると胎児の情報を読み取りにくくなります。

Q4. cffDNAは出産後も母体に残りますか?

基本的に残りません。cffDNAは血中での寿命が短く、分娩で胎盤が離れると供給がとだえます。出産後は比較的短い時間で母体血中から消えていくとされています。そのため、前回の妊娠のcffDNAが次の妊娠の検査に混ざる心配は、基本的にありません。

Q5. cfDNAを調べる検査で、病気を確定できますか?

確定はできません。cffDNAは胎盤由来のため、胎盤限局性モザイクなどにより胎児本体と食い違うことがあります。血液を調べる検査は可能性を示す非確定的な検査で、確定には羊水検査などが必要です。気になる所見が出たときは、医療機関で確定的検査について相談してください。

Q6. NIPTの仕組みや精度はどこで確認できますか?

本記事はcfDNAの生物学的な基礎に絞っています。検査の具体的な仕組み・対象疾患・精度や限界は、NIPTの仕組みを解説した記事とNIPTとは何かの解説でくわしく整理しています。目的に合わせて読み分けてください。

まとめ

胎児cfDNAとは、妊娠中の母体血中を漂う短いDNAの断片で、その多くは胎盤の栄養膜細胞に由来します。「胎児由来」と呼ばれますが、厳密には胎盤由来という点が、偽陽性のしくみを理解する鍵になります。母体血中のcfDNAに占めるcffDNAの割合が胎児分画で、妊娠週数や母体の体格で変動します。cffDNAは妊娠初期から現れ、分娩後は速やかに消えるため、調べているのは今の妊娠に由来する情報です。こうしたcfDNAの性質が、NIPTなどの検査の土台になっています。検査そのものの仕組みや精度はNIPTの仕組みを解説した記事で確認し、基礎と検査を分けて理解してください。

監修:岡 博史(おか ひろし)(ヒロクリニック統括院長/医学博士)

資格:日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会産業医/CAPラボディレクター/東京衛生検査所 指導監督医

所属:医療法人社団福美会 理事

略歴:1996年 慶應義塾大学医学部 卒業/2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得/2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手/2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業/2009年 医療法人社団福美会 理事長/2015年 医療法人社団福美会 理事

担当分野:皮膚疾患・皮膚外科・医療情報全般の監修統括

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