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BRCA1・BRCA2とは|HBOCとがんリスクを解説

この記事でわかること

  • BRCA1・BRCA2がどんな働きをするがん抑制遺伝子なのか
  • 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とBRCAの関係
  • 「変異があれば必ず発症する」わけではない理由
  • BRCA遺伝子検査と遺伝カウンセリングでわかること
  • 病的バリアントが見つかったあとに検討される選択肢

BRCA1・BRCA2は、DNAの傷を正確に直す「相同組換え修復」に関わるがん抑制遺伝子です。この2つの遺伝子に生まれつきの病的バリアント(病気の原因となる変化)があると、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因となり、乳がんや卵巣がんなどのリスクが高くなります。ただし、これは「変異があれば必ずがんになる」という話ではなく、生涯を通じたリスクが上がるという確率の話です。この記事では、BRCA遺伝子の基本から、HBOCとの関係、BRCA遺伝子検査でわかること、見つかったあとの向き合い方までを、専門用語をかみくだいて説明します。

BRCA1・BRCA2とは?がん抑制遺伝子としての役割

BRCA1とBRCA2は、細胞のDNAに生じた傷を修復し、がん化を防ぐ「がん抑制遺伝子」です。私たちの細胞は毎日、紫外線や化学物質、細胞分裂のミスなどによってDNAに傷を受けています。その傷を放置するとがんの引き金になりますが、BRCA1・BRCA2はこの傷を正しく直す仕組みの中心で働いています。

名前の由来は「Breast Cancer(乳がん)」です。1990年代に乳がんの家系研究から発見された経緯があり、乳がんとの結びつきが強い遺伝子として知られてきました。とはいえ働きは乳腺だけにとどまらず、体じゅうの細胞でDNAを守る役割を担っています。

相同組換え修復(HRR)というDNA修復のしくみ

BRCA1・BRCA2は、DNAが両方の鎖で切れる「二重鎖切断」を正確に修復する相同組換え修復(HRR)で中心的に働きます。二重鎖切断はDNAの傷の中でも深刻なタイプです。相同組換え修復は、傷ついていない同じ配列を手本にして、元通りに直すという精密な方法をとります。

この修復がうまく働かないと、細胞はより雑な方法で傷をつなぎ合わせるようになります。すると遺伝情報にエラーがたまり、細胞が制御を失って増え続ける下地ができてしまいます。BRCA1・BRCA2の機能が失われた細胞では、こうしたエラーの蓄積が起こりやすくなると考えられています。

初めてこの仕組みを知ったとき、私は「1つの遺伝子が門番のように細胞を守っている」というイメージを持ちました。門番が休むと城の守りが手薄になる、そんな比喩がしっくりきます。DNA修復の担い手という視点は、後で触れる薬物療法の考え方にもつながります。

BRCA1とBRCA2の違い

BRCA1とBRCA2は別々の染色体にある別の遺伝子ですが、どちらもDNA修復とがん抑制という共通の目的で働きます。役割の細部やタンパク質としての形は異なるものの、相同組換え修復を支えるという大きな枠組みは共通しています。

項目BRCA1BRCA2
主な働きDNA修復・細胞周期の制御DNA修復(相同組換えの実行を補助)
関係するがんの傾向乳がん・卵巣がんとの関連が強い乳がん・卵巣がんに加え前立腺がん等でも指摘
遺伝のしかた常染色体顕性(優性)常染色体顕性(優性)

どちらの遺伝子に病的バリアントがあっても、HBOCという同じ枠組みで考えます。BRCA1かBRCA2かによって関連するがんの傾向にちがいはありますが、「DNA修復が弱くなる」という本質は共通しています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

HBOCは、BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列の病的バリアントが原因で、乳がんや卵巣がんなどのリスクが高くなる遺伝性の体質です。HBOCはHereditary Breast and Ovarian Cancer syndromeの略で、日本語では遺伝性乳がん卵巣がん症候群と呼ばれます。

ここで大切なのが「生殖細胞系列」という言葉です。生殖細胞系列のバリアントとは、生まれつき全身の細胞が持っている変化のことで、親から子へ受け継がれることがあります。一方、がん組織だけで後天的に起きる変化は体細胞バリアントと呼ばれ、遺伝しません。HBOCで問題になるのは前者です。

HBOCで高まる主ながん

HBOCでは乳がんと卵巣がんのリスクが高まり、加えて膵がんや前立腺がんなどとの関連も指摘されています。関連するがんは1つではなく、複数の臓器にまたがる点がHBOCの特徴です。

  • 乳がん(女性・男性のいずれでも起こり得ます)
  • 卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含めて考えます)
  • 膵がん
  • 前立腺がん

どの臓器のリスクがどれくらい高まるかは、BRCA1かBRCA2かによって傾向が異なります。ここでは具体的な発症率の数値には踏み込みません。数値は研究や集団によって幅があり、個々人にそのまま当てはまるものではないためです。正確なリスクの見積もりは、家族歴などをふまえて専門医が個別に判断します。

常染色体顕性(優性)遺伝という遺伝形式

BRCAの病的バリアントは常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとり、親が持っていると子へ2分の1の確率で受け継がれます。常染色体顕性とは、ペアになった遺伝子の片方に変化があるだけで体質として現れやすい、という遺伝のしかたです。

この「2分の1」という数字は、あくまで受け継ぐ確率です。受け継いだからといって、その人が必ずがんになるわけではありません。受け継ぐかどうかの確率と、受け継いだあとに発症するかどうかの確率は別の話だ、という点を混同しないことが大切です。

男女どちらの親からでも受け継がれ、男女どちらの子にも伝わります。そのため「女性だけの問題」ではありません。家系にBRCAのバリアントがある場合、男性も含めた血縁者全体で情報を共有する意味があります。

「変異があれば必ず発症する」わけではない

BRCAに病的バリアントがあっても、がんを発症するとは限らず、生涯を通じたリスクが高くなるという確率の話として理解します。ここは誤解が生まれやすいところなので、丁寧に整理します。

がんの発症には、遺伝的な素因だけでなく、年齢や生活習慣、環境などさまざまな要因が関わります。BRCAのバリアントは、いわば「起こりやすさ」を底上げする要因の1つです。バリアントを持っていても生涯がんにならない人もいれば、若くして発症する人もいます。

だからこそ、結果を「白か黒か」で受け止めないことが大切です。検査で陽性という結果は、生活が終わる宣告ではありません。リスクを早めに知り、検診や予防の選択肢を前もって考えられる材料と受け止めるほうが、現実に即しています。私自身、この確率の考え方を知ってから、遺伝の話をむやみに怖がらなくなりました。

逆に、検査で病的バリアントが見つからなかったからといって、がんのリスクがゼロになるわけでもありません。BRCA以外の要因でがんは起こり得ます。だれもが年齢に応じた一般的な検診を続ける意味は変わりません。

BRCA遺伝子検査でわかること

BRCA遺伝子検査は、BRCA1・BRCA2に病的バリアントがあるかどうかを調べ、HBOCの体質を持つかを確認するための検査です。採血などで得た検体からDNAを解析し、病気の原因となる変化があるかを判定します。

検査の結果は、大きく「病的バリアントあり」「なし」「意義不明(VUS)」の3つに分かれます。VUSは、変化はあるものの病気との関連がまだはっきりしないという意味です。VUSと出た場合は、その時点で確定的な対応はとらず、今後の知見の更新を待つことになります。

検査の対象になりやすい人

家族歴や発症年齢などから、HBOCの可能性が考えられる場合に検査が検討されます。だれもが一律に受けるものではなく、背景をふまえて判断される検査です。

  • 若い年齢で乳がんや卵巣がんを発症した
  • 血縁者に乳がん・卵巣がん・膵がん・前立腺がんが複数いる
  • 男性乳がんの本人や家族歴がある
  • 家系ですでにBRCAの病的バリアントが確認されている

当てはまる項目があるからといって、あわてて検査を受ける必要はありません。まずは主治医や専門の窓口に相談し、自分にとって検査が役立つのかを一緒に整理するところから始めると落ち着いて進められます。乳がんや卵巣がんと診断された方では、治療方針の検討のために保険診療で検査が行われることもあります。

遺伝カウンセリングの役割

遺伝カウンセリングは、検査を受けるかどうかから結果の受け止め方まで、専門家と一緒に考えるための場です。BRCA遺伝子検査は、本人だけでなく血縁者にも関わる情報をもたらします。だからこそ、検査の前後で専門家と対話する意味が大きいのです。

カウンセリングでは、家族歴の整理や、検査でわかること・わからないこと、結果が出たあとの選択肢などを話し合います。結果を家族にどう伝えるか、といった心理的な面の相談にも対応します。数値だけでは割り切れない不安を、言葉にして整理できる場だと考えるとよいでしょう。

BRCAバリアントが見つかったあとの選択肢

病的バリアントが見つかった場合は、サーベイランス・リスク低減手術・薬物療法などを、専門医と相談しながら個別に選んでいきます。どれが正解かは人によって異なり、年齢やライフプラン、本人の希望によって変わります。

サーベイランス(定期的な検診)

サーベイランスは、リスクの高い臓器を定期的に検査し、がんを早期に見つけることを目指す方法です。乳房のMRIやマンモグラフィなど、通常より手厚い頻度・方法で検診を続けます。

手術のような侵襲がなく、まず取り組みやすい選択肢です。ただし、早期発見を目指すものであって、発症そのものを防ぐわけではありません。どの検査をどの間隔で行うかは、専門医が体質や年齢をふまえて設計します。

リスク低減手術という選択肢

リスク低減手術は、がんが起こる前にリスクの高い臓器を予防的に切除し、発症リスクを下げることを目的とした選択肢です。予防的な乳房切除や卵巣・卵管の切除などが該当します。

身体的にも精神的にも影響の大きい決断であり、だれにでも一律にすすめられるものではありません。年齢や出産の希望、ほかの選択肢とのバランスをふまえ、遺伝カウンセリングや複数の専門科と相談しながら、時間をかけて考えていく領域です。

薬物療法という考え方

BRCA関連のがんでは、DNA修復の弱さに着目した薬剤クラスが治療の選択肢として検討されることがあります。相同組換え修復が働きにくいがん細胞の性質を利用する、という発想の薬です。

代表的なものにPARP阻害薬と呼ばれる薬剤クラスがあります。ただし、どの薬がどの状況で使えるか、どの程度効果が期待できるかは、がんの種類や進行度、これまでの治療によって大きく異なります。効果や適応をここで断定することはできません。実際の治療方針は、必ず担当医が個々の状況に応じて判断します。

DNA修復という共通のテーマは、がんの性質を理解するうえで幅広く役立ちます。関連する話題として、がん免疫のしくみを扱ったPD-1/PD-L1とがん免疫療法の解説もあわせて読むと、がん治療の考え方の全体像がつかみやすくなります。

BRCAと他のがん関連遺伝子の関係

BRCA1・BRCA2は、数あるがん関連遺伝子の一部であり、ほかの遺伝子とあわせて理解するとがんの仕組みが見えやすくなります。遺伝子ごとに担う役割は異なり、それぞれが細胞を守る別々の仕組みを支えています。

たとえば、細胞のさまざまなストレスに応じてがん化を抑えるp53遺伝子は、「ゲノムの守護者」とも呼ばれる代表的ながん抑制遺伝子です。また、DNAの複製ミスを直すミスマッチ修復に関わるMLH1遺伝子は、別の遺伝性のがん体質と関わることが知られています。BRCAとこれらを並べて見ると、DNAを守る仕組みが何重にも用意されていることがわかります。

公的な情報源として、国立がん研究センターが運営するがん情報サービスや、がんゲノム医療の解説ページも参考になります。遺伝子と検査の位置づけを、公的機関の情報とあわせて確認しておくと安心です。

HUMEDITは、こうしたがん関連遺伝子の解析にサービスとして取り組んでいます。事業の詳しい内容はがん関連の取り組みを紹介するページで確認できます。

よくある質問(FAQ)

BRCA1・BRCA2やHBOCについて、相談の現場でよく寄せられる疑問をまとめました。気になる点があれば、専門の窓口で個別に確認してください。

Q1. BRCA1とBRCA2の違いは何ですか?

どちらも相同組換え修復に関わるがん抑制遺伝子で、DNA修復とがん抑制という目的は共通しています。別々の染色体にある別の遺伝子で、関連するがんの傾向に細かな違いはありますが、HBOCという同じ枠組みで考えます。

Q2. 病的バリアントがあると必ずがんになりますか?

必ず発症するわけではありません。生涯を通じたリスクが高くなるという確率の話です。バリアントを持っていてもがんにならない人もいます。だからこそ、早めにリスクを知って検診や予防の選択肢を考える材料にするという受け止め方が現実的です。

Q3. HBOCは男性にも関係しますか?

関係します。BRCAの病的バリアントは男女どちらにも受け継がれ、男性では前立腺がんや男性乳がん、膵がんなどとの関連が指摘されています。家系にバリアントがある場合、男性も含めて情報を共有する意味があります。

Q4. BRCA遺伝子検査はどこで受けられますか?

遺伝性のがんを扱う医療機関や遺伝子検査に対応した施設で受けられます。乳がんや卵巣がんと診断された方では、治療方針の検討として保険診療で行われることもあります。まずは主治医や専門の窓口に相談するとよいでしょう。

Q5. 家族にBRCA変異が見つかったら私も検査すべきですか?

受けるかどうかは本人が選ぶものです。血縁者に病的バリアントがある場合、同じバリアントを受け継いでいる可能性を考えます。ただし判断は年齢や状況によって異なるため、遺伝カウンセリングで整理してから決めると落ち着いて進められます。

Q6. 検査で陽性だった場合、どんな対策がありますか?

サーベイランス、リスク低減手術、状況に応じた薬物療法などが検討されます。どれを選ぶかは一人ひとり異なり、専門医や遺伝カウンセリングと相談しながら個別に決めていきます。陽性という結果は宣告ではなく、選択肢を前もって考えるための情報です。

まとめ

BRCA1・BRCA2は相同組換え修復に関わるがん抑制遺伝子で、生殖細胞系列の病的バリアントはHBOCの原因となり、乳がん・卵巣がんなどのリスクを高めます。ただし、変異があれば必ず発症するのではなく、あくまで生涯リスクが上がるという確率の話です。

BRCA遺伝子検査や遺伝カウンセリングは、リスクを早めに知り、サーベイランスやリスク低減手術、薬物療法といった選択肢を落ち着いて考えるための入り口です。対策は一律ではなく、専門医や遺伝カウンセリングのもとで、その人に合った形を個別に選んでいきます。まず一歩として、信頼できる窓口に相談するところから始めてみてください。