がん遺伝子検査でわかること|遺伝性腫瘍と2つの変異
この記事でわかること
- なぜ遺伝子を調べるとがんのなりやすさがわかるのか、その仕組み
- 生まれ持った「生殖細胞系列の変異」と、がん組織で起こる「体細胞変異」の違い
- 遺伝性腫瘍症候群の代表例と、関連する遺伝子
- がん遺伝子検査でわかること/わからないこと
- 遺伝カウンセリングの役割と、血縁者への影響
がん遺伝子検査とは、DNAの変化を調べて、がんへのなりやすさや治療の手がかりを読み解く検査です。がんは、細胞のDNAに変化(変異)が積み重なって起こります。生まれ持った変異があると、特定のがんになりやすくなることがあります。この記事では、その仕組みと検査でわかること、そして注意点を、専門用語をかみくだいて解説します。
がん遺伝子検査とは?なぜ遺伝子でがんのなりやすさがわかるのか
がんは、細胞のDNAに変異が積み重なって発生する病気です。だからこそ、その設計図である遺伝子を調べると、がんとの関わりが見えてきます。
私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。それぞれの細胞は、DNAという設計図に従って働いています。この設計図の一部が壊れると、細胞の増殖にブレーキがかからなくなります。ブレーキ役を担うのが、がん抑制遺伝子です。
細胞の成長を抑えたり、傷ついたDNAを修復したりする遺伝子に変異があると、その働きが弱まります。すると細胞が異常に増え、がんへとつながっていきます。生まれつきそうした変異を持つ人は、そのぶんスタート地点が前にある、といったイメージです。
変異は、一度に大量に生じるわけではありません。年齢を重ねるなかで、少しずつ積み上がっていきます。生まれ持った変異がある人は、その積み上がりが早く進みやすい、と考えられています。
ここで大切なのは、遺伝子を調べても「いつがんになるか」まではわからない、という点です。わかるのは、あくまで「なりやすさの傾向」。この違いを、次の章から順に整理していきます。
生殖細胞系列の変異と体細胞変異|2種類の違いを理解する
遺伝子の変異には、生まれ持った「生殖細胞系列」と、後天的にがん組織で起こる「体細胞」の2種類があります。この2つは、意味も検査の目的もまったく異なります。
混同されやすいところなので、ていねいに分けて説明します。私自身、初めてこの分野に触れたとき、この2つを取り違えて理解が止まった経験があります。
生殖細胞系列の病的バリアント(生まれ持った変異)
生殖細胞系列の変異は、受精卵の段階から持っている変化です。そのため、全身のすべての細胞に共通して存在します。
この変異は、親から子へ受け継がれることがあります。病的な意味を持つものは「病的バリアント」と呼ばれます。特定の病的バリアントがあると、ある種のがんになりやすくなる。これが遺伝性腫瘍症候群です。血液などから調べることができます。
体細胞変異(がん組織で後天的に起こる変異)
体細胞変異は、生まれた後に、特定の細胞で起こる変化です。喫煙・紫外線・加齢などの影響で、生きているあいだに蓄積していきます。
この変異は、そのがん組織にとどまり、子へは受け継がれません。かわりに、いま起きているがんの性質を映し出します。だからこそ、体細胞変異は治療薬を選ぶ手がかりになります。この考え方が、後述するがんゲノム医療です。
| 観点 | 生殖細胞系列の変異 | 体細胞変異 |
|---|---|---|
| 存在する場所 | 全身の細胞に共通 | がん組織などの一部の細胞 |
| いつ生じるか | 生まれ持っている | 生後に後天的に生じる |
| 子への遺伝 | 受け継がれることがある | 受け継がれない |
| 主な検査目的 | がんのなりやすさ・遺伝性腫瘍の有無 | 治療薬の選択(がんゲノム医療) |
遺伝性腫瘍症候群とは|代表的な症候群と関連遺伝子
遺伝性腫瘍症候群とは、生殖細胞系列の病的バリアントによって、特定のがんになりやすくなる状態の総称です。全体の一部ではありますが、家系内で受け継がれる点に特徴があります。
代表的な症候群と、関わる遺伝子を見ていきます。それぞれの遺伝子については、個別の記事で詳しく解説しています。
遺伝性腫瘍症候群は、がん全体のなかでは一部にとどまります。それでも、家系内で受け継がれるため、早めに把握できると備えにつながります。血縁者に同じがんが続いている家系では、とくに意識しておきたいところです。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とBRCA
もっとも知られているのが、BRCA1・BRCA2遺伝子に関わる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。これらは、傷ついたDNAを修復する働きを担っています。
病的バリアントがあると、乳がんや卵巣がんなどのリスクが高まります。ただし、あくまで「なりやすさ」であり、発症が確定するわけではありません。仕組みの詳細は、BRCA1・BRCA2とHBOCの解説記事で確認できます。
リンチ症候群とミスマッチ修復遺伝子(MLH1など)
リンチ症候群は、大腸がんや子宮内膜がんなどに関わる遺伝性腫瘍症候群です。MLH1やMSH2といった、ミスマッチ修復遺伝子の変異が背景にあります。
ミスマッチ修復は、DNAが複製されるときの写し間違いを直す仕組みです。この働きが弱まると、変異がたまりやすくなります。詳しくは、MLH1遺伝子とリンチ症候群の解説記事をご覧ください。
がん抑制遺伝子TP53(p53)とリ・フラウメニ症候群
TP53は「ゲノムの守護者」とも呼ばれる、代表的ながん抑制遺伝子です。この遺伝子がつくるp53というタンパク質が、細胞の異常を見張っています。
生殖細胞系列にTP53の病的バリアントがあると、リ・フラウメニ症候群として、さまざまな部位のがんに関わります。役割の全体像は、p53(TP53)の解説記事にまとめています。
いずれのケースでも、変異があること=必ず発症すること、ではありません。あくまでリスクの傾向であり、生活習慣や環境も発症に関わります。
がん遺伝子検査でわかること・わからないこと
遺伝子検査でわかるのは「なりやすさの傾向」であって、「必ず発症するかどうか」ではありません。できることと、できないことを正しく分けて理解しておきましょう。
過度な期待も、過度な不安も、どちらも検査の目的から外れてしまいます。次のリストで、線引きを確認してください。
わかること
生殖細胞系列の検査でわかるのは、主に次のような情報です。
- 特定のがんになりやすい傾向(リスクの高低)
- 遺伝性腫瘍症候群に関わる病的バリアントの有無
- 血縁者にも同じ変異が伝わっている可能性の手がかり
わからないこと
一方で、検査だけでは判断できないこともあります。ここを誤解すると、結果に振り回されてしまいます。
- いつ、どの部位にがんが起こるか、という発症の時期や確定
- 変異が見つからない場合に「がんにならない」という保証
- 生活習慣や環境の影響をすべて含めた、総合的な将来像
結果はあくまで確率の話です。変異が見つかっても、生涯発症しない人もいます。だからこそ、結果をどう受け止め、どう行動するかが問われます。ここで専門家の支援が欠かせません。
がんゲノム医療と体細胞変異|治療選択との関わり
がんゲノム医療とは、がん組織の体細胞変異を調べて、一人ひとりに合った治療の手がかりを探す医療です。なりやすさを調べる検査とは、目的が異なります。
すでにできているがんの遺伝子を調べ、その性質に合わせて治療方針を検討します。同じ臓器のがんでも、遺伝子の状態は人によって違うためです。詳しい制度や流れは、国立がん研究センターのがんゲノム医療とがん遺伝子検査の解説が参考になります。
体細胞変異のなかには、免疫の働きに関わるものもあります。がん細胞が免疫のブレーキを利用する仕組みとして、PD-1・PD-L1が知られています。この経路については、PD-1・PD-L1とがん免疫療法の解説記事で整理しています。
なお、どの治療が適するかは、主治医が総合的に判断します。検査結果だけで治療が決まるわけではありません。制度の全体像はがんゲノム医療の詳細ページでも確認できます。
検査を受ける前に|遺伝カウンセリングと血縁者への影響
生殖細胞系列の検査を受けるなら、事前と事後の遺伝カウンセリングが欠かせません。結果は本人だけでなく、血縁者にも関わるからです。
遺伝カウンセリングでは、専門の医師や認定遺伝カウンセラーが相談に応じます。検査の意味、結果の受け止め方、その後の選択肢まで、順を追って整理していきます。
生まれ持った変異が見つかると、その情報は血縁者にも影響します。親やきょうだい、子にも同じ変異が伝わっている場合があるためです。誰に、どう伝えるか。これはとてもデリケートな問題です。
私が話を聞いた範囲でも、「知りたい気持ち」と「知る怖さ」のあいだで揺れる方は少なくありません。だからこそ、一人で抱えず、専門家と一緒に進めてください。カウンセリングは、その伴走役になります。
がん遺伝子検査の受け方とHUMEDITの取り組み
がん遺伝子検査は、目的に応じて医療機関や検査機関で受けられます。まずは、自分が何を知りたいのかを整理することから始めてください。
気になる症状や家族歴があるなら、かかりつけ医や専門外来に相談するのが第一歩です。そのうえで、必要に応じて遺伝カウンセリングや検査へ進みます。
検査には、保険が使えるものと、自費のものがあります。目的や状況によって選択肢が変わるため、まずは専門家に確認してください。費用や検査の範囲を、事前に把握しておくと安心です。
株式会社HUMEDITは、東京衛生検査所を基盤に、遺伝子検査に取り組んでいます。取り扱う検査の範囲は、HUMEDITの遺伝子検査事業のページで確認できます。がん関連遺伝子に関する検査について知りたい方は、下のボタンから気軽にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
がん遺伝子検査について、よく寄せられる質問をまとめました。検査を考えるときの参考にしてください。
Q1. 遺伝子検査で変異が見つかったら、必ずがんになりますか?
いいえ、変異があっても必ず発症するわけではありません。わかるのは「なりやすさの傾向」です。生涯発症しない人もいますし、生活習慣や環境も関わります。結果は確率として受け止めてください。
Q2. 生殖細胞系列の変異と体細胞変異は、何が違いますか?
生殖細胞系列の変異は生まれ持ったもので、全身の細胞に共通し、子へ受け継がれることがあります。体細胞変異は生後にがん組織などで起こる変化で、子へは受け継がれず、主に治療選択の手がかりになります。
Q3. 検査で変異が見つからなければ、がんにならないと言えますか?
言えません。がんの多くは、遺伝とは関係なく後天的な要因で起こります。変異が見つからないことは、リスクがゼロという意味ではありません。定期的な検診は引き続き大切です。
Q4. 検査の結果は、家族にも関係しますか?
生殖細胞系列の変異が見つかった場合、親やきょうだい、子にも同じ変異が伝わっていることがあります。血縁者への影響を含め、伝え方や対応は遺伝カウンセリングで相談してください。
Q5. 遺伝カウンセリングは受けたほうがよいですか?
生殖細胞系列の検査では、事前・事後のカウンセリングが基本になります。検査の意味や結果の受け止め方、その後の選択肢を専門家と整理できます。一人で抱え込まず、専門家と進めてください。
Q6. がんゲノム医療と、遺伝性腫瘍の検査は同じですか?
目的が異なります。がんゲノム医療は、すでにあるがんの体細胞変異を調べて治療の手がかりを探す医療です。遺伝性腫瘍の検査は、生まれ持った変異からなりやすさを調べるものです。
まとめ
遺伝子を調べるとがんのなりやすさがわかるのは、がんがDNAの変異から起こる病気だからです。ポイントを、もう一度おさらいします。
- 生殖細胞系列の変異は生まれ持ったもので、なりやすさや遺伝性腫瘍に関わる
- 体細胞変異はがん組織で起こり、治療選択(がんゲノム医療)に関わる
- 変異があっても、必ず発症するわけではない
- 検査の前後では、遺伝カウンセリングと血縁者への配慮が欠かせない
検査は、不安をあおる道具ではありません。自分の体を知り、次の一歩を選ぶための手がかりです。気になることがあれば、専門家に相談してみてください。