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甲状腺がんと遺伝子の関係|遺伝性と検査を解説

この記事でわかること

  • 甲状腺がんの多くは散発性で、遺伝性はその一部にとどまること
  • 髄様がんの遺伝性を代表する遺伝子がRET遺伝子であること
  • MEN2(多発性内分泌腫瘍症2型)とRET遺伝子の関係
  • 乳頭がん・濾胞がんに関連する遺伝性腫瘍と原因遺伝子
  • 「変異があれば必ず発症する」わけではない理由
  • 甲状腺がんの遺伝子検査と遺伝カウンセリングの考え方

甲状腺がんと遺伝子の関係で押さえるべき点は、大半が散発性で、遺伝性はごく一部にとどまるという事実です。そのなかで代表的なのが、髄様がんに関わるRET遺伝子です。この記事では、髄様がんと非髄様がん(乳頭がん・濾胞がん)で関係する遺伝子の違い、MEN2という遺伝性の病気、そして遺伝子検査と遺伝カウンセリングの位置づけを、中立的に整理します。特定の治療をすすめる内容ではありません。ご自身やご家族の状況に当てはめて読んでいただける入り口になれば幸いです。

甲状腺がんと遺伝子の関係|多くは散発性で遺伝性は一部

甲状腺がんの多くは遺伝とは無関係に生じる散発性で、家族性・遺伝性のものは全体の一部です。まずは、甲状腺がんの種類と、遺伝子の話を整理していきます。

甲状腺がんは、発生する細胞や性質によっていくつかに分けられます。大半を占めるのが乳頭がんで、次いで濾胞がんが続きます。これらをまとめて分化がんと呼びます。そのほかに髄様がん、未分化がんがあります。種類ごとに関わる遺伝子が異なるため、遺伝子を語るときは、まずどのタイプかを区別する姿勢が欠かせません。

遺伝子の変異には、大きく二つの種類があります。一つは、生まれつき全身の細胞が持ち、子へ受け継がれうる生殖細胞系列変異です。もう一つは、後天的にがん組織だけに起こり、子には伝わらない体細胞変異です。「甲状腺がんは遺伝するのか」という問いは、この二つを分けて考えると理解しやすくなります。染色体や遺伝子の基礎については、ヒトの染色体についての解説記事もあわせてご覧ください。

散発性の甲状腺がんでは、がん細胞にBRAFやRASといった遺伝子の体細胞変異が見つかることがあります。これらはあくまで腫瘍のなかで起きた変化で、家族に受け継がれるものではありません。一方、遺伝性の甲状腺がんでは、生殖細胞系列の変異が背景にあります。がんの発生を抑える遺伝子については、がん抑制遺伝子p53の解説も参考になります。甲状腺がん全般の基礎情報は、国立がん研究センターがん情報サービスの甲状腺がん解説が信頼できる情報源です。

髄様がんと関わるRET遺伝子とは

髄様がんの遺伝性を代表する遺伝子がRET遺伝子で、その生殖細胞系列変異が家族性の発症に関わります。ここでは、髄様がんとRET遺伝子の基礎を押さえます。

髄様がんは、甲状腺のC細胞(傍濾胞細胞)から発生するがんです。C細胞は、カルシトニンというホルモンを分泌する役割を担っています。乳頭がんや濾胞がんとは出発点となる細胞が違うため、関わる遺伝子や性質も異なります。髄様がんは甲状腺がんのなかでは少数派に位置づけられます。

RET遺伝子の働き

RET遺伝子は、受容体型チロシンキナーゼと呼ばれるタンパク質の設計図です。細胞の外からの信号を受け取り、細胞の増殖や分化、生存へとつながるシグナルを内側へ伝えます。神経系や内分泌の組織が育つ過程で、この働きが役立ちます。正常なときは、必要なときだけ入るスイッチ。無駄に働き続けない仕組みです。

RET遺伝子に活性化変異が起こると、スイッチが入りっぱなしの状態になり、細胞が増え続ける方向へ傾きます。髄様がんの発生に関わるのは、主にこのタイプの変化です。RET遺伝子の分子レベルの情報は、米国国立医学図書館のMedlinePlus GeneticsのRET遺伝子解説(英語)にまとまっています。

遺伝性の髄様がんと孤発性の髄様がん

髄様がんは、遺伝性のものと孤発性のものに分かれます。遺伝性では、RET遺伝子の生殖細胞系列変異を受け継いでいます。後述するMEN2や、髄様がんだけがみられる家族性髄様甲状腺がん(FMTC)が含まれます。

一方、孤発性の髄様がんでは、生まれつきの変異はなく、家族歴もないことが多いとされます。私自身、患者さんの資料を読むなかで、同じ髄様がんでも遺伝性か孤発性かで意味合いが大きく変わる点に、いつも注意を向けています。ご家族の検査を考えるうえでも欠かせない出発点。ここを飛ばすと、話がかみ合わなくなります。

MEN2(多発性内分泌腫瘍症2型)とRET遺伝子

MEN2は、RET遺伝子の生殖細胞系列変異によって起こる遺伝性の病気で、髄様がんと深く関わります。ここでは、そのサブタイプと遺伝形式を整理します。

MEN2(多発性内分泌腫瘍症2型)は、複数の内分泌の臓器に腫瘍が生じやすい体質を指します。中心となるのが髄様がん。加えて、副腎の褐色細胞腫や、副甲状腺の機能亢進などがみられることがあります。大きく分けて、MEN2A、MEN2B、家族性髄様甲状腺がん(FMTC)の三つがあります。

タイプ主な特徴関わる遺伝子
MEN2A髄様がん・褐色細胞腫・副甲状腺機能亢進が組み合わさりやすいRET
MEN2B髄様がん・褐色細胞腫に加え、粘膜神経腫などを伴うことがあるRET
家族性髄様甲状腺がん(FMTC)髄様がんが中心で、ほかの内分泌腫瘍を伴いにくいRET

MEN2の遺伝形式は、多くが常染色体顕性遺伝(従来の優性遺伝)です。片方の親から変異を受け継ぐと、子へ伝わることがあります。ただし、変異を持つことと発症することは同じではありません。この点は次の見出しで詳しく扱います。

予防的な甲状腺全摘という選択肢について

MEN2と診断され、RET遺伝子に病的な変異が確認された場合、髄様がんの発症リスクを踏まえて、予防的な甲状腺全摘が検討されることがあります。手術を行うかどうか、行うとしていつ行うかは、変異の種類やご本人の年齢、全身の状態によって変わります。

ここで強調したいのは、その判断は必ず専門医と遺伝カウンセリングを通じて、一人ひとり個別に決めていくものだという点です。この記事の情報だけで手術の要否を判断しないでください。RETを標的とする分子標的薬も選択肢に加わってきましたが、どの治療が適するかは主治医と相談して決めていきます。

乳頭がん・濾胞がんに関連する遺伝子と症候群

髄様がん以外の甲状腺がんでも、一部は遺伝性腫瘍の症候群と関連します。ここでは、非髄様がん(乳頭がん・濾胞がん)に関わる遺伝子を整理します。

乳頭がんや濾胞がんの多くは散発性ですが、まれに、特定の遺伝性腫瘍症候群の一部として甲状腺がんが現れることがあります。代表的なものを表にまとめました。いずれも髄様がんのRET遺伝子とは異なる遺伝子が関わります。

症候群関わる遺伝子甲状腺との関連
DICER1症候群DICER1多結節性甲状腺腫や分化型甲状腺がんと関連しうる
PTEN過誤腫症候群(カウデン症候群)PTEN濾胞がんや良性の甲状腺結節と関連しうる
家族性大腸腺腫症(FAP)APC特定の型の乳頭がんと関連しうる
カーニー複合PRKAR1A甲状腺結節・甲状腺がんと関連しうる
ウェルナー症候群WRN甲状腺がんの頻度が高まると報告されている

このうちDICER1症候群は、DICER1という遺伝子の変異が背景にあります。DICER1遺伝子は、細胞のなかで遺伝子の働きを調整する小さなRNAの生成に関わります。詳しくは、DICER1遺伝子とはを解説した記事をご覧ください。

ただし、表に挙げた症候群はいずれもまれです。乳頭がんや濾胞がんと診断された方の大多数は、これらの遺伝性症候群には当てはまりません。散発性の分化がんでは、がん組織にBRAF遺伝子の変異やRET/PTC再配列などが見つかることがありますが、これらは体細胞の変化で、家族へは受け継がれません。遺伝性を心配しすぎず、まずは主治医に家族歴を共有する姿勢が現実的です。

「遺伝子変異があれば必ず甲状腺がんになる」わけではない

病的な遺伝子変異を受け継いでいても、必ず甲状腺がんを発症するとは限りません。変異の有無と発症は、分けて理解する必要があります。

遺伝性腫瘍で受け継がれるのは、あくまで「発症しやすさ」です。多くは常染色体顕性遺伝の形をとりますが、実際にがんが生じるかどうかは、変異の種類や、その後に細胞へ加わる別の変化、生活環境など複数の要因が関わります。同じ変異を持つ家族のなかでも、発症の時期や現れ方に差が出ることがあります。

私は資料を読み込むなかで、「変異がある=すぐに手術」という単純な図式に当てはめない姿勢が、いかに大切かを繰り返し感じてきました。変異が見つかったときこそ、数字だけに振り回されず、専門家と一緒に意味を確かめる時間が要ります。だからこそ、遺伝子の結果は遺伝カウンセリングとセットで受け止めてください。

甲状腺がんの遺伝子を調べる検査と遺伝カウンセリング

甲状腺がんの遺伝子検査は、目的によって調べる対象が異なり、遺伝カウンセリングと組み合わせて考えるものです。検査の種類と相談の流れを整理します。

遺伝子検査は、大きく二つに分けられます。一つは、生まれつきの体質を調べる生殖細胞系列の検査です。RET遺伝子など、遺伝性に関わる変異の有無を確認します。もう一つは、がん組織そのものを調べる腫瘍(体細胞)の検査です。治療方針を考える材料として使われる場面があります。目的が違うため、どちらを行うかは状況に応じて選びます。

生殖細胞系列の検査は、結果が家族にも関わります。だからこそ、検査の前後で遺伝カウンセリングを受け、結果の意味や次の選択肢を一緒に整理する流れが取られます。検査の位置づけについては、国立がん研究センターのがん医療における遺伝子検査の解説が参考になります。

HUMEDITは、がん関連の遺伝子検査に取り組んでいます。事業の内容は遺伝子検査事業のページで紹介しています。検査を受けるかどうかや、結果をどう活かすかは、担当の医師や遺伝の専門家と相談しながら決めていくものです。気になる点があれば、下記の窓口から気軽にお問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

甲状腺がんと遺伝子について、よく寄せられる疑問をまとめました。個別の判断は、必ず担当の医師や遺伝の専門家にご相談ください。

甲状腺がんは遺伝しますか?

甲状腺がんの多くは散発性で、遺伝とは無関係に生じます。遺伝性のものは全体の一部です。髄様がんではRET遺伝子が代表的で、乳頭がんや濾胞がんでも、まれに遺伝性腫瘍症候群と関連することがあります。家族に甲状腺がんの方がいる場合は、その情報を主治医に伝えてください。

髄様がんと乳頭がんで関わる遺伝子は違いますか?

はい、異なります。髄様がんの遺伝性を代表するのはRET遺伝子です。乳頭がんや濾胞がんでは、DICER1やPTEN、APCなど、別の遺伝子が関わる症候群が一部で知られています。がんの種類によって背景が違うため、まずどのタイプかを区別することが出発点になります。

RET遺伝子の変異があると必ず髄様がんになりますか?

必ず発症するとは限りません。遺伝性腫瘍で受け継がれるのは「発症しやすさ」で、実際に発症するかどうかは変異の種類やほかの要因にも左右されます。変異が見つかった場合は、遺伝カウンセリングを受け、意味や今後の選択肢を専門家と確認してください。

MEN2と診断されたら甲状腺を予防的に摘出するのですか?

予防的な甲状腺全摘が検討されることはありますが、一律に決まるものではありません。手術の要否や時期は、RET遺伝子の変異の種類やご本人の状態によって変わります。判断は専門医と遺伝カウンセリングを通じて、個別に行うものです。この記事の情報だけで自己判断しないでください。

甲状腺がんの遺伝子検査はどこで受けられますか?

遺伝性を調べる生殖細胞系列の検査は、遺伝カウンセリングの体制が整った医療機関で受けるのが基本です。まずは主治医に相談し、必要に応じて専門外来を紹介してもらう流れが一般的です。検査の目的や意味を理解したうえで進めてください。

家族が甲状腺がんの場合、私も検査を受けるべきですか?

受けるべきかどうかは、がんの種類や家族歴によって変わります。特に髄様がんやMEN2が疑われる家族歴がある場合は、専門家への相談が勧められます。まずは情報を整理し、遺伝カウンセリングで検査の必要性を一緒に検討してください。

監修:岡 博史(おか ひろし)(ヒロクリニック統括院長/医学博士)

資格:日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会産業医/CAPラボディレクター/東京衛生検査所 指導監督医

所属:医療法人社団福美会 理事

略歴:1996年 慶應義塾大学医学部 卒業/2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得/2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手/2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業/2009年 医療法人社団福美会 理事長/2015年 医療法人社団福美会 理事

担当分野:皮膚疾患・皮膚外科・医療情報全般の監修統括

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